バスで30分程の通学をしていた高校生の頃の出来事です。
朝は同じ時間のバスに乗る友人が何人か居てずっとおしゃべりしながらの通学は楽しい時間だったのですが、帰りは友人たちとバラバラになることも多く、その日は少し遅い時間になったこともあり同じ学校や近隣校の生徒は一人も乗っておらず、一目で乗っている席が覚えられる数名の乗客が乗っていただけでした。
真ん中の乗車口から乗って運転手さん横の運賃箱に運賃を支払うタイプのバスの真ん中あたりに私は座りました。私が降りる終点の一つ手前のバス停に近づくにつれ一人二人と降車していき、いつもより遅い時間だったこともあり最後まで乗っているのは私だけになっていました。
バス停に着いて運賃を払って降車口の階段を降り数歩歩いた時、トントントンと降車口の階段を降りてくる音がハッキリと聞こえたのです。「あれ?後ろの席にまだ誰か乗ってたんだ」とこれから十数分の薄暗い田舎の夜道を帰らなければいけない私にとっては思いがけない朗報だったのですが、そう思ったのも束の間、音が聞こえてすぐに振り返った私の目に映ったのは薄暗い街灯に微かに照らされた田舎の一本道だけでした。
「これはヤバイ!」と一瞬で状況を把握し、さっきのトントントンという音は気のせいだと自分に言い聞かせながら一度も振り返らず一心不乱に走って家までたどり着いたことを鮮明に覚えています。
そしてそれ以降、自宅で開いている扉のすき間を横切る人影を見たり、階段を上っていく家族とは別の足音を聞いたりすることが10日間程続きました。
いつの間にか見ることも感じることも無くなったそれが何だったのか?分からないままでしたが、あの学校帰りのバスから何かを連れて帰ってきてしまったのだと自分なりに理解した恐怖体験でした。